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みかんのたね

薬学や研究の話、くだらない話、愚痴などを書きます。

アミノグリコシド系抗菌薬と難聴(2)

続きです。

ミトコンドリア遺伝子1555の機能

アミノグリコシド系抗菌薬によって引き起こされる難聴は、ミトコンドリア遺伝子の変異を持つ人においては、そうでない人に比べてより起こりやすいということを書きました。特に1555番目のDNAの変化が重要であるというのは前回述べたとおりです。

では、この「1555番目のDNA」(以降、1555と呼びます)は、なぜ重要なのでしょうか。この点について考えるために、1555の機能について考えてみました。

ヒトのミトコンドリア遺伝子に関する情報は、インターネット上にデータベースとして公開されています。その中の一つであるMITOMAPで、この1555の機能を調べてみました。その結果、1555は、「12S rRNA (ribosomal RNA)」という遺伝子の一部であると記されていました。

ribosomal RNA(日本語では「リボソームRNA」と呼ばれます)は、細胞の中でタンパク質を合成する装置である「リボソーム」の重要な部品です。このリボソームRNAがないと、細胞が生きていくのに必要なタンパク質を作ることができず、細胞は死んでしまいます。

 

ではなぜ、リボソームRNAが変化すると、アミノグリコシド系抗菌薬による難聴のリスクが上昇するのでしょうか。この疑問に答えるために、次はアミノグリコシド系抗菌薬が「どうやって細菌を殺しているのか」について考えます。

アミノグリコシド系抗菌薬が細菌を殺すメカニズム

結論から言います。アミノグリコシド系抗菌薬は、細菌のリボソームに結合して、細菌の細胞の中でのタンパク質の合成を妨げます。

ちなみに、リボソームはヒトだろうとウサギだろうと細菌だろうと、およそ生物であれば細胞の中に存在して、タンパク質の合成を担っています。

したがって、アミノグリコシド系抗菌薬に晒されてリボソームの働きが抑えられた細菌は、タンパク質の合成ができなくなって死滅します。これが、アミノグリコシド系抗菌薬の作用メカニズムです。

ここで、次のような疑問を持たれる方がいらっしゃると思います。

「それじゃヒトも抗菌薬で死んでしまうじゃないか!」

至極まっとうなご指摘だと思います。この疑問は、お薬について考えるときにとても重要なコンセプトを内包しています。それは「選択毒性」という考え方で、抗菌薬の場合には「細菌は殺すが、ヒトは殺さない」という性質のことを指します。現在、薬として用いられている抗菌薬はすべて、この「選択毒性」という性質を持っています。

 

アミノグリコシド系抗菌薬はリボソームを標的としたお薬です。なので上のように「ヒトも殺してしまうじゃないか」という疑問が起こるのですが、実は細菌のリボソームとヒトのリボソームは構造が異なります。それにより、アミノグリコシド系抗菌薬は細菌のリボソームには結合しやすいが、ヒトのリボソームには結合しにくいという性質を実現し、結果として選択毒性を発揮しています。

 

次いで、なぜ1555の遺伝子変異が、アミノグリコシド系抗菌薬による難聴のリスクを増大させるかについて話を進めてまいりたいと思います。今日は、この辺で。