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みかんのたね

薬学や研究の話、くだらない話、愚痴などを書きます。

アミノグリコシド系抗菌薬と難聴(1)

今晩は、やらなければならないと思っていた仕事が実は解決済みだったことが判明したので、意気揚々とブログを書くことにいたします。

お薬の話は「死菌製剤」以来ですが、今回はお薬の話です。

 

お断り:
私は曲がりなりにも薬学部を出た人間ですので、薬にはベネフィット(利益)とリスクの二つの側面が常にあることを心得ているつもりです。従って、薬のいい面だけを強調したり、逆に副作用だけを強調して恐怖心を煽るようなつもりはありません。薬は、決められた用法用量で正しく服用しても有害な副作用を完全になくすことは(少なくとも現状では)出来ませんし、だからこそベネフィットとリスクを正しく理解・説明していくことが医療人の基本姿勢として求められると考えます。

 

冒頭の挨拶も済んだところですが、題名の通り抗菌薬とその副作用についての話です。

お薬についてちょっとかじったことのある方であれば、アミノグリコシド系抗菌薬(ストレプトマイシンなど)による有名な副作用の一つに「難聴」があるのをご存知であると思います。『重篤副作用疾患別対応マニュアル』という文献があり、難聴の項を見るとこの辺りのことは詳しく述べられています。

 

難聴というのは一般に、耳が聞こえづらくなるという状態を指しています。

Wikipedia: 難聴

難聴(なんちょう、英語: hearing impairment)とは、聴覚が低下した状態のこと。耳科学的には、聴覚の諸機能の感度や精度が若年健聴者、即ち、耳科学的に正常な18歳から30歳までの多数の評定者の聴覚閾(域)値の最頻値 (0dB HL) よりも劣っている事とされる。そのレベルは30dB HLとされている。

 その原因は、

1. 脳の中で、聴覚情報を処理する部位が障害をうける

2. 耳と脳をつなぐ神経に異常が起こる

3. 耳自体が障害を受ける

という風に一般に考えられています。

 

実はアミノグリコシド系抗菌薬の副作用として起こる難聴は、3番の「耳自体が障害をうける」ことによるという考察が与えられています。耳といっても、外側(耳の入り口)から順に外耳・中耳・内耳と細かく分けられますが、アミノグリコシド系抗菌薬はこれらのうち「内耳」を障害することによって、まれに難聴を引き起こします。

注)ちなみにアミノグリコシド系抗菌薬によって難聴が現れる頻度は、ゲンタシン注(一般名:ゲンタマイシン)の場合「0.1%未満」です。

 

最近、アミノグリコシド系抗菌薬によって(0.1%未満の頻度で!)起こる難聴には、あるリスク因子があることが解ってきました。

それは、ミトコンドリア遺伝子*1の変異です。前述の文献を見ると、ミトコンドリア遺伝子の1555番目の塩基の変異により、アミノグリコシド系抗菌薬による難聴発生のリスクが増大すると記述されています。

 

ミトコンドリアってそんなに重要なの?と思われる方もいるかも知れませんが、ミトコンドリアはとても重要です。我々が息を吸った時に取り込む酸素は、二酸化炭素と水になって体外に排出されますが、ここで酸素を水に変換してエネルギーを取り出しているのは、実はミトコンドリアです。細胞に取り込まれた酸素は、実はミトコンドリアが居なければ十分に消費できません。ミトコンドリアが十分に機能しなければ、細胞とって有害なことが二つ起こります。一つはエネルギーの産生が不十分になることと、もう一つは細胞内の酸素濃度が上昇してしまうことです(酸素は細胞の生存に必須ですが、濃度が高すぎると「酸化ストレス」という状態をまねいて細胞を殺してしまいます)。

 

眠くなってきたので、続きは次回。 

*1:ヒトの細胞には46本の染色体があり、そこにはヒトゲノムの情報が刻み込まれているということはご存知だと思います。しかしながら、ヒトの細胞に存在する遺伝子は、実は46本の染色体に存在する遺伝子以外にもあるということは、生物をある程度勉強した方以外には知られていません。ヒトの細胞内には「ミトコンドリア」が存在していますが、ミトコンドリアは太古の地球で、我々の遠い遠い祖先である真核生物に共生した細菌が起源であると考えられています。従って元々別の生物ですから、ミトコンドリアは当初から独自の遺伝子セットを持っており、それが現在のヒトの細胞内に存在するミトコンドリアにも脈々と(一部を失ったりしながら)受け継がれています。その「ミトコンドリア独自の遺伝子」のことを「ミトコンドリア遺伝子」とか「ミトコンドリアゲノム」とか呼びます。